劇場の大きなスクリーンで作品と遭遇するという体験は、いまでは、世界的に、都会に住むものたちだけに許された途方もない贅沢となりつつあります。産業としての映画は、かなりの時間と手間をかけて製作された一本の作品を劇場で公開するという形式だけでは、明らかに投下した資本を回収できなくなっております。実際、いまでは、何らかの意味での個人的な消費形態が映画産業を支えているのであり、ことによると、これもまた「映画崩壊前夜」の一形態といえるのかもしれません。(2020.8 群像 277頁 蓮實重彦)